近年の住宅の着工戸数ですが、戸建て住宅は減少していますが、賃貸アパートやマンションはまだまだ増えていますね。賃貸専門の大東建託はもちろんのこと、大和ハウスや積水ハウスも収益の中心は戸建て住宅よりも賃貸住宅にシフトしています。
そして最近よく聞くようになったのは、『賃貸併用住宅』です。
私は2社の大手賃貸系の建設会社で計8年間、設計業務やコンサルタントとして賃貸併用住宅やマンションのオーナーズルームを担当してきました。その経験をもとに、設計者の立場から『賃貸併用住宅』でやりがちな8つの失敗について紹介していきます。
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1.音がうるさい
賃貸併用住宅に限らず、共同住宅につきものなのが『音』の問題です。
大手の賃貸アパート、マンションメーカーで建てる場合、各社音については配慮した工法を採用していますが、それでも音はします。
ではどこからの音が気になるでしょうか?3つ考えられますので、それぞれについて解説していきます。
上階の床からの音(界床)
オーナー住宅は一般的に、1階、または最上階に計画されることが多いですね。
1階の場合は、2階の入居者の音、最上階の場合は自分達が出す音が気になります。
もともとマンションやアパート住まいだった方が賃貸併用住宅に住むのであれば良いですが、一般的には土地付きの戸建て住宅の建て替え時に建て替えることがほとんどです。そのため戸建てだったら気にしなくて良い音が入居してから気になります。
『これからは、マンション、アパート住まいになる』と思ってある程度覚悟しておいてください。
ただ、床の音は工法によってある程度、軽減することは出来ます。
一般的にはRC(鉄筋コンクリート造)が一番音が伝わりにくく、次に鉄骨、で音が伝わりやすいのが木造、ということになりますが、採用する工法によっても違ってきます。
そして音の伝わりやすさの単位もあります。子供が飛び跳ねたりするような音を『床の重量床衝撃音 LH』、スリッパやスプーンを落とした音を『軽量床衝撃音 LL』といいます。LH-45とか、LL-40といった風に表し、数値が小さいほど音が聞こえにくいと言われています。
大東建託や積水ハウス、大和ハウスなど賃貸アパート、マンションの大手では独自の工法で遮音等級を競っていますが、普通の工務店がアパートを建てるような場合は、そこまでの配慮がされてない場合もあります。契約前に確認した方が良いですね。
対策
賃貸アパートの場合、大東建託では、LH-50、LL-40、積水ハウスは、LH-50、LL-50です。
どちらも建築学会の遮音等級2級をクリアしていて、『遮音性能上支障が生じることもあるがほぼ満足しうる』性能だそうです。まずは、ここを目指すのが良いかと思います。
音がまったく気にならないようにするには、RC造にするのが一番良いですが、木造であればテラスハウスにする方法もあります。このように、1階から2階までを一つの住戸にすれば、上下階の音は気になりませんよね。
テラスハウスは階段部分が増えるので、効率は悪いです。ですからオーナー部分のみテラスハウス形式で、賃貸部分は通常のアパート形式、という形も可能です。上記のような感じです。要は戸建て住宅にアパートがくっついている感じですね。
隣の住戸からの音
隣戸からの音も気になりますよね。壁の遮音性能はD値と言います。ややこしいのですが、D値は大きいほど、遮音性能が高いんですよね。先ほどの建築学会の基準ですと、D-45が2級となります。
音って基本的には、重い壁の方が音は伝わりにくいです。そのためRCは伝わりにくいのですが、以前、太鼓現象というのが問題になりました。
RCの界壁(戸境壁)の両側に石膏ボードを貼った場合、石膏ボードで共鳴してしまい隣に音が伝わってしまうという現象です。この現象は建築業界では常識ですが、慣れてない監督によって間違って施工されることもなくはないです。そのため原則、RCの界壁はコンクリート直にビニルクロスを施工することになります。
木造の場合は、柱を千鳥に配置し振動が伝わりにくくする、グラスウールなどを充填する、プラスターボードを2枚張りにするなどの方法があります。上記は吉野石膏の遮音壁ですね。
排水音
2階以上の住戸のトイレ、お風呂、キッチンなどの排水は、下階の住戸をPS(パイプスペース)を通って、下水管に接続されます。
この時に排水音が聞こえることがあります。これまでは、パイプスペースの廻りをグラスウールで囲うなどの方法がとられていたようですが、現在は、積水や大東建託といった大手は、音ナインなどの防音排水管を標準採用しています。
音ナインは、排水管の廻りに防音材が巻かれている商品なのですが、実際、私もサンプルで試してみましたが、ほとんど音漏れはないです。2世帯住宅や、2階に浴室がある戸建て住宅でも音が気になることはあります。多少コストアップしますが、音に敏感な人は採用すべきですね。
2.中高層協議と近隣とトラブル
賃貸併用住宅は、3階建て以上になることが多いので用途地域や中高層条例によっては、近隣説明を行う必要があります。これは建設会社の営業や設計が代理で行う場合が多いですが、影響を受ける近隣から直接話がある可能性はあります。
基本的に近隣住民はわがままですので、様々な要望が出たり、トラブルになることも多いです。
よほどのことがない限り、行政によって決められた中高層協議を行えば建てられないということはないですが、近隣との関係が悪化する可能性はあります。
また工事が始まってからも、工事車両の路上駐車などで迷惑をかけてしまうこともあります。
建設会社任せにせずに、近隣対応や現場確認はした方がよいですね。
3.間取りが制限される
戸建て住宅とは違い、賃貸併用住宅は他の住戸あってのオーナールームですから、オーナー住戸の位置や大きさは制限されてしまいます。
オーナールームを広くしたい、でも賃貸で必要な戸数や収益を考えると、これ以上大きく出来ない、というジレンマはありますね。相続税対策で建てた場合には、床面積が今住んでいる家の半分になってしまう、とかザラにあります。
上階の場合、水廻りの位置も下階のPS(パイプスペース)の位置によって決まってきます。
たとえば、南側に日当りの良いキッチンを設けようとしても、下階にPSを通す場所がなければ難しい、ということになります。
また高層の鉄筋コンクリート造で高さ制限が厳しい場合には、天井に梁が出てくることがあります。
リビングの真ん中に梁が通っていると変なので梁が目立たないような間取りにする必要も出てきますね。
戸建て住宅の場合は、『戸建てに住む方のために』間取りや構造を検討し予算も使うことが出来ます。
賃貸併用住宅の場合は、賃貸部分あってのオーナールームです。賃貸の戸数が10戸を超えるような場合は余裕がありますが、賃貸4戸でオーナールーム1戸といった場合は(自己資金にもよりますが)、オーナールームに予算をあてる余裕はないことが多いです。
これは賃貸併用を建てる目的にもよりますね。
多少でも住宅ローンの足しになればとか、相続税対策としてなら良いですが、毎月の収益を確保したい場合は、全て賃貸にして自分は分譲マンションに住む方が有利かな、と経験的には思います。
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4.設計担当者が間取りが不得意
賃貸アパートやマンションの設計者は、建築基準法や消防法、構造には詳しいけれど、住宅の設計経験があまりない、という方が多いです。特に大東建託や東建コーポレーションといった賃貸アパート専門の会社の場合は、特にその傾向が強いですね。
大東建託の場合は、オーナールーム仕様の商品があるのでまだ良いのでですが、その商品仕様から外れるような間取りや仕様になる場合は、施主側がかなり勉強して、自ら提案していかないと拘りあるオーナールームにすることは難しいです。
そのような会社でも、本社にオーナールーム専門チームがいてサポートする体制が整っている場合がありますので、担当営業に確認してみた方が良いかもしれません。経験のあるインテリアコーディネーターが打ち合わせに同席してくれて、アドバイスやコーディネートをしてくれるようになります。
ハウスメーカーで住宅を建てる場合は、家を建てたい!と思った方が住宅展示場にきて会社選びをする、という流れですが、賃貸アパートの場合は、営業マンが地主を回って営業をかける、というスタイルになります。アパートを建てる意欲も知識もない地主さんと人間関係をつくって、土地活用や相続税対策としてアパート建設を提案する、という営業スタイルですので、基本、建設会社側のペースで打ち合わせは進むんですね。
オーナールーム部分もそういうノリで打ち合わせしますから、会社側のスケジュールに沿って、2,3回の打ち合わせで間取り確定し、仕上げのクロスは自分で決めてください、面倒なら賃貸と同じものがお勧めですよ、という感じになります。
設計者はそのような仕事ばかりしているわけですから、スキルもあがらず、提案力がない、ということになります。
ただし、積水ハウスや大和ハウスの場合は、戸建て住宅の設計者が賃貸部門へ移動しているようなので、良い提案をもらえるかもしれないですね。
いずれにせよ、快適なオーナールームにしたいなら、複数社から提案してもらい会社を決めるのが良いと思います。
5.RCの場合、直床が多い
都内で賃貸併用住宅を建てる場合は、RC造(鉄筋コンクリート)か鉄骨造が多いかと思います。
4階建て以上の場合は、音や断熱性の違いから鉄骨よりもRC造にする方がお勧めです。
RC造は気密性も高く熱容量も大きいので(一度暖まると冷めにくい)快適です。
ただ、会社によっては、コンクリートの上に直接フローリングを敷く「直床」という仕様を採用している場合がありますので注意が必要です。
「直床」とは、クッションがついたフローリングをコンクリートの床に直接敷くので、階高を抑えられて、高層マンションで戸数を稼ぐためには有効です。またコストも抑えられます。ただし転倒した時の衝撃が強かったり、音が階下に伝わりやすい、また歩く時のフカフカした感触が気になる、といったデメリットもあります。
これに対して分譲マンションでは、「置床」が採用されています。「置床」はコンクリートの上に束を建てて合板などで下地をつくり、その上にフローリングを敷くタイプで、10センチくらいの高さは余計にかかりますが、遮音性も高く、転倒時の衝撃も少なく(木造並み)、床も普通(木造と同じ感じ)です。
賃貸部分については、この「直床」(またはその会社の標準仕様)で良いとは思うのですが、オーナールーム部分については、「置床」にした方が分譲マンション並みの仕様となり快適性もアップしますのでお勧めです。
とはいえ、直床用のフカフカしかフローリングの方が好み、という方もいらっしゃいますので、一度体験してみるのも良いと思います。東京ですとダイケン新宿ショールームに展示があり体験できるはずです。
6.バリアフリーにならない場合がある
バリアフリーというのは定義が難しいですが、戸建て住宅の場合ですと、水廻りや和室で段差がない、というのは常識ですね。
ただ賃貸併用住宅の場合で、先ほどの直床を採用している場合には、この「段差がない」というのは難しいこともあります。1階にオーナールームがある場合はバリアフリーにしやすいのですが、最上階にある場合は排水経路の確保のために、浴室や洗面所、トイレが廊下よるも10センチ程度、あがっていることがあるんですね。
これは設計的に検討すれば解消できる話なのですが、床が上がっているのが賃貸の標準である場合、オーナールームでもそれが適用されることが多く、設計者も水廻りが上がっているのが「当たり前」だと思っているので特にオーナーに説明しない、ということもあります。
床が上がっていても問題ないなら良いのですが、「床が上がっているなんで、あり得ない!」と思ってらっしゃる場合は、建設会社側に確認を行った方が良いですね。
7.入居者とのトラブル
オーナーが管理しない場合、何か問題があった場合は基本的には管理会社が対応することになっています。
建前上ですが、オーナーも家賃を払うような形にしている場合もありますので、本来は入居者扱いのはずです。ですが、実際の入居者によっては、何か問題があった場合には近くにいるオーナーに言えばいい、という感覚になる人もいます。
特に同じフロアに入居者とオーナーがいる場合には、それが起こりやすいので、出来ればオーナーがいる階にはオーナールームだけ、というのが理想ですね。
またマンションやアパートで起こる音やゴミの問題などは普通に起こりますので、これまで一戸建てに住んでいて、それを壊して賃貸併用住宅を建てる場合には気を付けた方がいいですね。(まあ当たり前ですが)
8.売却しずらい
先祖代々受け継いだ土地を守るという目的で、相続税対策として賃貸併用住宅を建てる場合には、売却するという選択肢は考えられないかもしれませんね。
ただ、様々な理由からオーナールーム付きのマンションを売却する方はいます。
通常、オーナールームは、他の賃貸よりも大きく作ります。
例えば、1DKのマンション30㎡が1フロア3戸で4階建ての場合、1~3階は賃貸で、4階はオーナールームだったりしますね。そうなると、オーナールームは、30㎡×3戸分の90㎡ということになります。
購入する方も、そのオーナールームに住む、というなら良いのですが、そこに住まないで収益物件として考えるのであれば、90㎡のオーナールームは無駄でしかありません。
30㎡の賃貸の家賃が1戸平均7万円の場合、全て賃貸なら12戸ですから84万円の家賃収入になります。
90㎡のオーナールームの場合、家賃は多くて倍の14万円くらいかと思いますので、77万円です。
全て賃貸 7万円×12戸=84万円
オーナールーム付き 7万円×9戸+14万円=77万円
また、1DKは単身者ですが、90㎡となると住むのはファミリーです。単身者向けのマンションにファミリーが住む、というのもあまり好まれません。
家賃相場や需要にもよるかもしれませんが、一般的には収益物件としての魅力に欠ける、ということになるようです。対策としては、将来的にオーナールームを分割出来るように、玄関ドアや水廻りを追加できるように設計的に配慮しておく、ということは出来ます。心配な場合は、建設会社に相談した方が良いですね。
[ad#ad01]いかがでしたでしょうか?
色々と書いてきましたが、賃貸併用住宅の良い点としては、戸建て住宅と違い建築会社との関係が長く続くことですね。
戸建ての場合は建てたら終わりですが、賃貸の場合は管理もありますから、戸建てよりは下手なことは出来ない、というのはあります。
(といっても、ネット上では、色々な問題やトラブルが書かれていますし、実際にとんでもない事件もあったりします)
どんなことでもそうですが、情報弱者のままでは後でトラブルに巻き込まれることになりますから、しっかり学んで計画を進めるようにしましょうね。
では!
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掲載企業は、上記の大手建築会社を含め200社です。
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