間取りのセカンドオピニオンで一級建築士の船渡亮(ふなとあきら)です。
本日のテーマは
「リビング階段と独立階段、どっちを選ぶべき?」
です。
近年、注文住宅で主流となっているのがリビング階段です。
家づくり中の施主100人に階段についてアンケートしたところ、57%がリビング階段を採用していることがわかりました。
同じアンケートで、実家のリビング階段の割合は14%でした。
これから「家を建てようとする人」の実家が建築されたのは、20年~40年前と想定されます。
ざっくりしたデータではありますが、ここ数十年で4倍程度に増えたということになります。
私が設計業務を始めた90年代は、まだ独立階段が主流でしたが、リビング階段を採用することもありました。
ただ吹き抜けと同様、2階部分と空間が一体になるので、暖房効率が著しく落ちてしまいます。
そのため、床暖房は必須とした上で
「暖房効率が悪いので、冬は寒いかもしれないですね」
という説明が必要でした。
その潮目が変わったのは、2015年くらいです。
世界的な脱炭素の流れで、国が住宅の高断熱化を推奨したこともあり、この頃から、一定の断熱性能を備えた住宅が供給されるようになります。
日本の戸建て住宅は、
「冬寒くて夏暑い」
のが定番でしたが、大手ハウスメーカーも高断熱化した商品を次々発売したこともあり、この10年で状況が急速に変化しました。
断熱性が高ければ、開放的な空間でも暖房効率は悪くなりません。
その結果、リビング階段でも、
「そこまで寒くない」
ということになり、リビング階段採用のハードルが一挙に下がりました。
2025年からは、住宅の断熱義務化が、やっとスタートします。
これで、建売や建築条件付きの木造住宅もある程度の断熱性能を担保できるようになります。
まあ、実際には、性能が義務化される
「断熱等性能等級4」
では、リビング階段では寒いと感じる人もいると思います。
特に、日当たりの良い分譲マンション住まいだった方にとっては、厳しいかもしれません。
リビング階段にするなら、
「断熱等性能等級5」が安心ではありますが、サッシのグレードアップなどでクリアは可能です。
このように、
「冬、寒いから」
といった理由で、リビング階段を諦める必要がなくなりつつありますが、果たして、
「リビング階段と独立階段」
は、どうやって選べば良いでしょうか?
それぞれのメリット・デメリットと、選び方について解説します。
本記事は、YouTubeチャンネル「アキラ先生の住まい間取り教室」をテキスト化したものです。動画版はこちらから視聴できます。
YouTubeは、週3回更新していますので、合わせてご視聴ください。
リビング階段、独立階段とは?
まず、リビング階段、独立階段の定義をいたします。
「え、リビングに階段があれば、リビング階段じゃないの?」
と思われる方も多いと思います。
確かにそうなのですが、
「リビング階段」が、今、選ばれる理由は、リビングに階段がある、ということよりは、
「子供がリビングを通ってから、階段を上る」
からです。
つまり、「動線が重要」ということですね。
そこで、この動画では、「独立階段」と「リビング階段」を、こちらのように定義しました。
独立階段
玄関からリビングを通らずに、2階に上がる階段
リビング階段
玄関からリビングを通って、2階に上がる階段
2つの階段を分けるのは、「出宅・帰宅で、リビングを通るか通らないか」という動線の問題なので、「リビング階段」であっても、リビングに階段がない場合もあります。
「リビングにないリビング階段」って、ちょっとわかりにくいと思うので、後ほど、間取りを見ながら解説します。
では、早速、リビング階段のメリット・デメリットを話します。
リビング階段の魅力は、親子の挨拶
リビング階段を選ぶことで、家族と自然に顔を合わせたり、挨拶できることを期待しているわけです。
確かに独立階段だと、
子供の出入りがわかりにくく、
「いってらっしゃい!」
「おかえり!」
という声かけがしにくいイメージがあります。
その点、リビング階段では、家の出入り時に、必ずリビングを通るので、親が在宅なら、そのような心配はなさそうです。
ただ夫婦共働きで、
子供の通学・帰宅の時間に親がいない場合、
子供が早く帰宅して、自分の部屋にいる、ということもあるあり得ます。
そのようになってしまうと、リビング階段のメリットは活かしきれません。
2位の「子供の引きこもり防止」ですが、リビング階段が「ひきこもり防止」になる、というエビデンスは、何もありません。
引きこもりは主に
「学校や仕事場など、家庭以外での挫折や問題が主な原因」
と言われれています。
親との関係が原因でひきこもり、ということではないので、リビング階段で、「ひきこもり」が防止されるわけではないです。
3位の「スケルトン階段」は、階段の向こう側が透けて見てる階段を言います。
シンボリックに見えるためリビングの演出としても使えます。
吹き抜けと組み合わせるとカッコよく良いですし、階段部分をリビングの一部として利用できるので、空間を広く見せる効果もあります。
ただリビングを横切って2階に上る動線になるので、テレビの前を通らないなど、十分な動線検討が必要です。
ちなみにリビング階段を選んだ方の57%が、
「自宅の間取りが、親子の人間関係に影響を与える」
と考えています。
独立階段の場合は、41%なので、リビング階段を採用される方は、それだけ「間取り」に期待している、ということですね。
音・におい問題を解決する間取り
リビング階段のデメリットですが、
「暖房効率が悪くなる」
の他に、
「音が2階にも聞こえやすい」
「料理などの匂いが2階にもいく」
があります。どちらも空間が繋がっているからこそ起こる問題です。
そこで採用したいのが、「リビングにないリビング階段」です。
こちらの間取りのように、リビング階段前に引戸などをつけることで、独立階段のように、空間を分けることが出来ます。
リビング→廊下→階段
となるため、2階に音や匂いが行きにくく1階の暖房効率も高めることが出来ます。
「断熱等性能等級4」の場合、引き戸は設置した方が良いかもしれません。
また、この間取りの場合、廊下を挟んで、トイレに行けるので、リビングに排泄音が聞こえる心配もありません。
リビング内を通る動線に注意
リビング階段の動線の注意点ですが、
リビング階段は、LDK内を通り階段までいく動線になります。
そのため、リビングやダイニング廻りが動線になる場合があり、落ち着かない空間になりがちです。
この間取りの場合、2階に行くのにテレビやソファ、テーブル横を通らなければなりません。動線上にはゴミ箱などモノを置くこともできませんし、くつろぐ空間にはしにくいです。
2階への動線は、なるべく短くシンプルにするのが良い間取りのコツとなります。
独立階段は家族同士のプライバシー重視
次は独立階段です。
独立階段を選んだ理由は、こちらの4つになります。
1位 家族同士のプライバシーを守られる 48%
2位 リビングの暖房効率を高められる 47%
3位 音や匂いが2階にいかない 44%
4位 家族の友人がリビングを通らなくて良い41%
家族のプライバシーを守れる、という意味では確かに独立階段は有利ですね。
またリビング階段で問題となりがちな、暖房効率や音、匂い問題も解決できます。
4位の「家族の友人がリビングを通らなくていい」ですが、休日にくつろいでいるのに、子供の友達がリビングに入ってきてほしくない、と感じる方は一定数いらっしゃいます。
リビング階段の場合、同じ理由で
「子供の友達は家に入れない」
という家庭もあります。
「友達を家に呼べない」間取りに住むのは子供にとって災難でしかないですから、自分達がそういう性格だと思う場合は、独立階段を選んだ方が、
「子供にとっては、ありがたい」
はずです。
ちなみに、アンケートによると、
独立階段を選ぶ施主は、リビング階段を選ぶ場合より、
「親との関係が良好」
なようです。
自分達が、間取りとは関係なく、
「親と良い関係を築けているという自信がある」
ので、独立階段を選べる、のかもしれないですね。
独立階段でも挨拶しやすい間取り
独立階段を選んだ施主の37%が、挨拶やルールは習慣付けで問題ないと考えています。
確かに、ある程度はルールや習慣で解決は出来ますが、家族に未成年がいる場合は、帰宅した、出かけた、ということがリビングからわかる方が良いですね。
そうでないと、子供が
「行ってきます!」
と玄関で言った場合でも
「いってらっしゃい!」
と返せないので、子供としても言う意味を見出しにくくなり、挨拶が習慣化しにくいかもしれません。
では、どのような独立階段の配置が良いでしょうか?
例えば、こちらのような間取りなら、
リビングから玄関ホールが見えるので家族の出入りがリビングから認識できますね。
家族が帰宅や出かける場合には、必ずリビングで挨拶する、というルール付けもしやすいです。
階段だけでなく間取り全体で判断する
リビング階段、独立階段について解説しましたが、一般論として、どちらが良いということを考えても意味がありません。
あくまで自分達家族が住む場合には、どちらが最適なのか?を、間取り全体の動線やプライバシー、暖房効率等も考えた上で判断しましょう。
子育て世代の場合、どちらの階段でも、家族の帰宅や出宅は、わかるようにすべきだと思うので、
「リビング階段」
「独立階段」
は、間取りでうまくハマる方で選ぶ感じで良いと思います。
リビング階段 → 独立階段
独立階段 → リビング階段
に変更するだけで、間取りが大幅に改善することもあります。柔軟に考えるようにしてみてください。
まとめ
本日のまとめは、こちらの5つです。
1.リビング階段は、子供より親の帰宅が遅いと活かせない
2.リビング階段は「引きこもり対策」にはならない
3.リビング階段でも、手前に廊下があれば、暖房効率や音などのデメリットは解消
4.独立階段でも、動線の工夫で挨拶などはしやすくなる
5.階段を変えることで、間取りが大幅改善することもある
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